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〜〜〜 くらさんの大阪うぉーきんぐ 〜〜〜

No.007 大川・天満の上方落語の舞台を訪ねて

〜三十石から初天神、天満天神繁昌亭まで〜

大阪あそ歩 OSAKA ASOBO No.150

  

八軒家にまつわる落語「三十石」から、人間国宝の桂米朝が「上方落語屈指の大ネタ」と賞賛する落語「百年目」、船場を舞台とした「鴻池の犬」「仔猫」、中之島の荒唐無稽なSF落語「胴斬り」、哀歓漂う「千両蜜柑」、ほのぼのとした「初天神」など、天満・大川界隈は上方落語の傑作・名作が目白押し! 上方落語から見えてくる大阪のまちの物語をお楽しみ下さい。 

大阪市営地下鉄谷町線「天満橋」からスタートです。

 

 

 

 

@ 八軒家と「三十石」 

 

八軒家船着場の跡碑・・・探し回りました、「永田屋昆布店」の隅っこにありました。

八軒家の名は、ここに八軒の船宿や飛脚屋があったことから出たものだといわれています。十辺舎一九の「膝栗毛」で知られる弥次さん・北さんが大坂への上陸第一歩を印したのもこの八軒家ですし、森ノ石松の「すし食いねえ」の話もここに設定せられているなど、八軒家は千数百年の間何かと話題の絶えないところであります。・・・だそうです。

 

江戸時代の八軒家は、大坂と京を結ぶ三十石船が行き来する水運の拠点でした。

 

「三十石」は伊勢参りの主人公が伏見・寺田屋から三十石船に乗って大坂・天満八軒家へ帰るまでを描きます。

1時間以上にわたる大ネタで「土産の伏見人形を買う」「乗船名簿の確認」「京都弁の売り子をからかう」「美人が膝の上に乗ってくるという男の妄想」「船頭の舟歌」「くらわんか舟とのやり取り」といったシーンが繰り広げられます。

 

大坂弁、京都弁、江戸弁、田舎言葉が入り乱れ、船頭の舟歌やくらわんか舟の掛け声など、往時の三十石船のリアルな風景描写が聞きものです。

 

サゲは船の中でスリが出て船頭が捕まえると蒟蒻屋の権兵衛という男で、権兵衛は儲からずに船頭に礼金が入ったので「権兵衛蒟蒻 船頭が利になる」。当時「権兵衛蒟蒻 辛労(しんど)が利になる」という諺があり、それをもじったものです。「蒟蒻屋の権兵衛」は京の蒟蒻屋で、他の店にはない大きな蒟蒻を販売して繁盛しましたが、小さい時と同値段で売ったので結局、利益はなかった・・・という話から「骨折り損のくたびれ儲け」と同意です。

 

「権兵衛が種蒔きゃカラスがほじくる」という諺もありますが、「権兵衛」と聞けば「儲からない男」の代名詞でした。

天満 船着き場に降りる階段が残っています。

天満橋八軒家は、平安時代より鎌倉時代にかけて皇族、貴族の紀州熊野本宮への参詣道(熊野古道世界遺産)の起点として賑わったそうです。

 

A 大川と「百年目」

船場の大店の番頭が主人公で、番頭は大旦那も来年は暖簾分けを考えているほどの商売上手でしたが、じつは大変な遊び人でした。

丁稚や奉公人に「得意先に行く」と嘘をついて、大川から屋形船を出して満開の桜が咲く桜ノ宮へ。

船を下りると「目ン無い千鳥」(扇子で目隠しして芸者を追い回す遊び)を始め、酔った番頭が千鳥足で人を捕まえて「そうれ!扇子取って面を拝見!」とやると、何と花見にやってきていた大旦那。

「これは大旦那!?長らくご無沙汰をいたしました。 お家も繁盛で、おめでとうございます。 ご機嫌よろしゅう存じます」と支離滅裂な挨拶を交わしますが、大旦那は「ああ、番頭はんに連れの衆か。 うちの番頭はんは大事な人や。 よう遊ばしとくなはれや」と何も言わずに去ります。

番頭は茫然自失となって店に戻り、大変なところを見られたと寝込みます。 いざ大旦那に呼ばれると、大旦那は番頭の普段の働きを誉め、「じつは遊んでいる番頭を見て不安になり、店の帳簿を調べたが、店の金には一切、手をつけていなかった。番頭は自分の金で遊んでいる。 その器量に嬉しくなった。大坂商人はそうでないといけない。 来年は間違いなく暖簾分けや」という意外なお言葉。

サゲは涙する番頭に向かって「それはそうと、あのとき『長らくご無沙汰』と長い事おうてないような言い方をしたが、どういうわけや?」「いや。 顔を見られて『しもた。 これが百年目!』と思いまして・・・」。

 

船場の大店の遊びや商法が反映され、人間国宝の桂米朝は「大阪落語の名作十題を選ぶとしたら当然入るネタ」と賞賛しています。 

 

B 今橋と「鴻池の犬」

かつて今橋に屋敷を構えたのが大商人・鴻池善右衛門。 その鴻池家を題材にしたのが「鴻池の犬」です。

 

ある日、船場・南本町の池田屋の軒下に黒、白、斑(ぶち)3匹の捨て犬があって丁稚が世話をしていると、「その黒犬を譲って欲しい」という謎の男が現れます。 吉日に改めて男が来訪すると、持参したのが豪勢な反物や美酒の数々。

「じつは自分は鴻池家の者だが、飼っていた黒犬が死んで、ぼんが気落ちしているので、是非とも黒犬を譲って欲しい」とのことで主人も納得して、黒犬は絢爛たる御輿に乗せられて鴻池家へ。 鴻池家の豪奢な餌で大きく育った黒犬は、やがて「鴻池の大将」というボス犬に。 犬同士の喧嘩の仲裁などをしていましたが、ある日、見慣れぬ黒白の斑の痩犬が鴻池に逃げてきます。 生い立ちを聞けば、なんと生き別れた弟。 もう一人の白犬の弟は死んだとのことで、黒犬が面倒を見ることになりました。

黒犬は「来い来い」と人間の声がする方へ行って戻ると、鯛の浜焼き、鰻巻きなどを貰ってきて弟は大喜びしますが、黒犬は「食い飽きてるから全部やるわ。 たまには庶民らしい茶漬けを食べたいわ」なんていってると、再び「来い来い」の声が。

黒犬が「よし。行ってくる」と誇らしげに行って戻ってきますが、何故か、何もない。 「どうしたんですか?兄さん?」と弟が尋ねると、黒犬は「ぼんに『しー来い来い』(おしっこ来い)言うてただけやった」。

 

犬が主人公という一風変わった落語で、鴻池家の描写などには当時の大坂庶民の憧憬や揶揄が感じられます。

 

C 船場と「仔猫」

船場には「犬の落語」(「鴻池の犬」)があれば、「猫の落語」(「仔猫」)もあります。

 

田舎から出てきたお鍋という女性が船場の商家に奉公にきます。 顔はいまいちですが働きもんで番頭にも可愛がられます。 ところがお鍋には「雨の降った晩に庭を徘徊して奇声を発していた」「深夜に会うと口に血糊がついていた」という怪しい噂が。 番頭も薄々、お鍋の奇行に気付いて、お鍋の留守中に持ち物を改めると、なんと夥しい血の毛皮がどっさり・・・。 番頭は恐くなってお鍋を解雇しようとしますが、お鍋は番頭の様子から自分の秘密がばれたことを悟り、泣く泣く身の上話をします。

それによるとお鍋の家は代々、山猟師で、親の因果が子に報い、幼い時に飼い猫の怪我の血を舐めたのがキッカケで猫の生き血の味を覚えて病みつきになったといいます。 「村でも鬼子と放逐され、大坂では慎もうと思いましたが、夜になると、どうしても猫を捕まえて生き血を啜ってしまいます。 ここを追われたら居場所がありません。 どうか夜は手足を縛ってでもいいから置いて下さい」というので、番頭は「人は襲わんのか。可哀想に。昼間はあんな明るいあんさんが夜になると、そんな恐ろしいことをするとは・・・猫かぶってたんやな」。

 

犬の落語は明るいですが、猫の落語は、どこか怪談調になるのは、当時の庶民感覚でしょうか。

 

D 中之島と落語「胴斬り」

天神橋から西を眺めると中之島が見えますが、江戸時代は蔵屋敷の集積地でした。 蔵屋敷は町の奉行所も入れない治外法権で、じつはここで横行したのが博打です。

 

「胴斬り」では、ある町人が中之島の博打で大負けして自棄酒を飲んで暴れていると、ひょんなことで武士と小競り合いに。

町人が「武士が怖くてカツオブシが喰えるか!」と啖呵を切ったので、怒った武士に胴斬りにされますが、武士が居合の達人だったので上半身はスポンと天水桶に乗って、下半身はトコトコと歩き出す始末。 結局、通りがかった友人に助けられて、何とか家まで帰宅。

翌日、友人が訪ねると上半身は飯を食い、下半身は動かないと亡骸として埋められてしまうので、そこらじゅうを走り廻っていました。 これでは仕事もできないとぼやくので、友人は不憫に思って、上半身には銭湯の番台、下半身には蒟蒻屋で蒟蒻玉を踏む仕事を持ってきます。 数日後、友人が銭湯屋に行くと、上半身は「働き甲斐がある。 しかし風呂の湯気で頭がボーっとするから下半身の足裏にお灸をすえて欲しい」。

次に蒟蒻屋に行くと番頭が飛んできて「よく働く、良い下半身を連れてきてくれた。 あと23体ないか?」。

サゲは友人が番頭に「なにか困ったことはないか?」と聞いて「上半身に、あんまり茶ばかり飲むなといってください。 小便が近くて・・・」。

 

このサゲには別バージョンもあって、そちらでは「あんまり女湯ばかり見るなといってください。褌が外れて・・・」という艶笑ものとなっています。

 

E 南天満公園と「千両蜜柑」

南天満公園は、かつて天満青物市があり、「千両蜜柑」に登場します。

 

ある呉服屋の若旦那が謎の病に倒れ、医者が言うには「これは気病で心に思っていることが適えば全快する」。

番頭が探って白状させると、若旦那は「実は蜜柑が食べたい」。 あっけに取られた番頭ですが、「すぐに蜜柑を持ってきまっせ!」と宣言。

ところが今は8月で蜜柑は見つかりません。 「天満青物市にあるのでは?」と教えられたので問屋に伺うと「蜜柑?蔵に入れてまっせ」。 喜び勇んで蔵に行って山積みの木箱を探しますが、ことごとく蜜柑は腐敗していて、しかし、最後の1箱の蜜柑だけは腐らずに残っていました。

問屋が無料であげると言うのを、よせば良いのに番頭は大店の見栄で「大坂商人たるもの、タダで商品はもらえまへん!商人冥利があります!」と見得を切り、問屋もつい意地になって「では千両!蔵の蜜柑が全部腐っていたら諦めますが、1つ残って買い手がついたのなら、千箱あった蜜柑全部の値付けをさせてもらいま! 商人冥利でまけるわけにはいきません!」。

番頭は吃驚して店に帰って大旦那に相談しますが、大旦那も「青物問屋は商人冥利というたか。よし!では千両箱を持って蜜柑を買うてきなはれ!」と売り言葉に買い言葉。番頭は目を白黒して千両を出して蜜柑10袋を買いました。

若旦那は蜜柑10袋を美味そうに食べ、「3袋残ったさかい、番頭食べ」と渡し、番頭は「蜜柑10袋に千両やから、この蜜柑1袋は百両。 3つあるから三百両・・・ええいっ! 野となれ山となれ!」と蜜柑3袋を持って逐電しました。

 

大坂商人の意地が張り合って千両もの高値となった蜜柑。 それに振り回される番頭の姿は滑稽ですが、どこか一抹の哀れさも感じさせます。

 

F 大阪天満宮と「初天神」

125日、男が大阪天満宮に参拝に出掛けようとすると、女房が「息子も連れていってくれ」と頼み、渋々、息子を初天神に連れていきます。

祭では屋台が出ていて、息子が飴や団子をねだり、父は拒否しようとしますが、結局、駄々をこねられて飴玉や団子を買い与えます。 天満宮の参拝を終えると、息子は「凧を買って欲しい」と懇願。 「あの1番大きいの」「あれは店の看板や」「ちゃんとした売り物ですよ。 坊ちゃん、買ってくんなきゃ、水溜りに飛び込んで着物を汚すよ!と言い」「変な入れ知恵すんな!」と、しぶしぶ凧を買い与え、天満宮の隣に有る空き地で、凧揚げをします。

ところが子供時代、凧揚げの腕には自信があった父が凧を揚げると、すっかり夢中になってしまい、凧を揚げさせてくれと脇から催促する息子を「うるさいっ!子供の出る幕じゃねえ!」と一喝。 無邪気に遊ぶ父の姿を見ながら息子は「こんな事なら親父なんか連れてくるんじゃなかった」とぼやいてサゲです。

 

ほのぼのとした親子の交流を描いた落語で、正月によく演じられます。

 

G 天満天神繁昌亭

上方落語唯一の寄席小屋で、落語を中心に色物芸(マジックや漫才、太神楽など、落語以外の芸)なども多数執り行われています。 

 

帰りは天神橋筋商店街を抜け、地下鉄谷町線「南森町」です。

 

 

【今日のアクティビティデータ】  歩数:14,234歩 距離:10.0km 移動階数:16階 

 

※この記事のマーカー「」以降は、ガイドマップからの転載です。

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